過敏性腸症候群（IBS）とは

「お腹の痛みや下痢・便秘が続くのに、検査では異常が見つからない」──そんな症状で悩んでいませんか？
その背後にある代表的な病気が**過敏性腸症候群（IBS：Irritable Bowel Syndrome）**です。
日本人の約10〜20％がIBSに関連する症状を持つとされ、消化器内科を受診する患者さんの約3人に1人がIBSと関係していると報告されています。特に20〜40代の若い世代に多く、学業・仕事・家庭生活に大きな影響を及ぼすことが特徴です。
IBSは命に直結する病気ではありません。しかし「通勤電車で急に腹痛が起きてトイレに駆け込みたくなる」「会議中に落ち着かず集中できない」「旅行や外出が楽しめない」といった日常の困りごとにつながり、生活の質（QOL）を大きく下げる病気です。
また、不安や緊張が症状を悪化させる「悪循環」に陥りやすく、心身両面でのケアが必要となります。

IBSの原因と発症メカニズム

IBSは単一の原因で起こるものではなく、複数の要因が重なり発症すると考えられています。

1.ストレスと自律神経の乱れ

腸は「第二の脳」と呼ばれ、自律神経によって動きが調整されています。ストレスや緊張が続くと腸の動きが乱れ、下痢や便秘を引き起こします。さらに腸の知覚が過敏になり、少しの刺激でも痛みを強く感じる「内臓知覚過敏」が特徴です。

2.感染後IBS

細菌性やウイルス性腸炎のあと、腸内細菌のバランスや粘膜防御機能が乱れ、そのまま慢性的な症状へとつながることがあります。比較的若い世代に多く見られます。

3.脳腸相関（Brain-Gut Axis）

脳と腸は神経やホルモンを介して双方向に影響を及ぼしています。不安や緊張が腸の動きを悪化させ、腸の不快感がさらに不安を強める──いわゆる「負のスパイラル」が症状を慢性化させます。

4.食生活・生活習慣

高脂肪食、香辛料の摂り過ぎ、カフェイン・アルコールの多用、不規則な生活や睡眠不足、運動不足などが症状を悪化させます。

5.遺伝や体質

家族内にIBSが見られる場合があり、体質的・遺伝的素因の関与も考えられています。

IBSの症状とタイプ

IBSは主に「便通異常のタイプ」によって分類されます。

このようにタイプが分かれるため、治療方針は一人ひとりの症状に合わせて調整する必要があります。

IBSの診断

Rome基準（国際的診断基準）

IBSは世界的に定められた「Rome基準」に基づいて診断されます。
過去3か月のうち月3日以上の腹痛または不快感があり、以下のうち2つ以上を満たす場合にIBSが疑われます。

1. 排便によって症状が軽くなる
2. 排便回数の変化がある
3. 便の形が変化する

検査の流れ

IBSは「除外診断」が基本です。他の病気を見落とさないことが大切です。

• 血液・尿・便検査：炎症や感染、出血の有無を確認
• 大腸内視鏡検査：特に50歳以上や血便・体重減少を伴う場合に必須
• 腹部エコー・CT：腫瘍や炎症性腸疾患を除外
• 内分泌検査：甲状腺疾患や糖尿病性神経障害を確認

IBSは「検査では大きな異常が見つからないのに症状が続く」点が特徴ですが、安心していただくためにも必要な検査を経て診断することが重要です。

IBSの治療

生活習慣の改善

• 朝食をしっかり摂るなど規則正しい食生活
• 暴飲暴食・夜食を避ける
• カフェイン・アルコール・香辛料を控える
• 発酵食品・食物繊維を適度に摂取
• 水分を常温でこまめに補給
• 軽い運動（ウォーキングやストレッチ）を習慣化
• 趣味やリラクゼーションでストレスを発散

→ 近年は低FODMAP食（腸でガスを発生させやすい糖質を控える食事法）が有効とされ、欧米を中心に広まっています。

薬物療法

• 消化管機能調節薬：腸の動きを整える
• プロバイオティクス：乳酸菌・ビフィズス菌製剤
• 下痢型：ロペミン®、イリボー®
• 便秘型：マグミット®、アミティーザ®、リンゼス®
• 腹痛：ブスコパン®などの抗コリン薬
• 補助療法：漢方薬（桂枝加芍薬湯・大建中湯など）、必要に応じて抗不安薬や抗うつ薬

心理療法

• 認知行動療法（CBT）：症状と不安の悪循環を断つ
• リラクゼーション：腹式呼吸・瞑想・マインドフルネス
• ストレスマネジメント：仕事や学業とのバランスを調整

受診をおすすめする症状

IBSと似た症状を示す重大な疾患（大腸がん・炎症性腸疾患など）を見落とさないため、以下の症状がある方は必ず医療機関での精査をおすすめします。

• 原因不明の体重減少
• 血便や黒色便
• 夜間に腹痛や下痢で目が覚める
• 家族に大腸がんの既往がある
• 50歳以上で初めて症状が出た

まとめ

• IBSは命に関わる病気ではありませんが、慢性的な腹部症状によって生活の質を大きく低下させます。
• 発症にはストレス・腸内環境・自律神経の乱れなど複数要因が関与します。
• 「便秘型・下痢型・混合型・分類不能型」に分けられます。
• 診断はRome基準と各種検査による除外診断が基本です。
• 治療は生活習慣の改善、薬物療法、心理療法を組み合わせて行います。

→「検査では異常がないのに、お腹の不調が続く」──そんなときはIBSの可能性があります。早めの受診で安心を得ることが大切です。

当院での診療

当院（東松原駅前いけざき内科内視鏡クリニック）ではIBSの診療に力を入れています。

• 丁寧な問診と必要な検査で、他の疾患をしっかり除外
• 症状タイプごとのオーダーメイド治療を提案
• 食事・生活習慣のアドバイスから漢方・心理的サポートまで幅広く対応
• 鎮静剤を用いた苦痛の少ない大腸内視鏡検査を実施
• 京王井の頭線「東松原駅」徒歩1分、渋谷から約10分、新宿から約15分とアクセス良好
• 平日夜間・土曜診療にも対応し、通院しやすい環境を整備

理念「灯台のようなあたたかな光で、健康の道しるべに」のもと、患者さん一人ひとりに寄り添った診療を心がけています。
「お腹の不調で毎日がつらい」──そんなときは、どうぞお気軽にご相談ください。